調査の動機
「相続税は資産家だけの話」「うちには関係ない」。相続の話題になると、こういう反応をよく聞く。
相続税の計算方法と節税対策をまとめたとき、「課税対象になるのは全死亡者の約9%」と書いた。つまり約90%の相続では相続税がかからない。この数字だけ見ると「やはり関係ない人が多い」という印象だが、本当にそうだろうか。
2015年に基礎控除が大幅に引き下げられた。都市部と地方で地価が大きく異なる。この「約9%」という数字の中身を掘り下げてみたくなった。
調べた過程
まず国税庁が毎年12月に公表している「相続税の申告事績の概要」を確認した。これは、その年に亡くなった方のうち相続税の課税対象になった人数と割合をまとめた統計。最新は令和5年分(2023年)で、2024年12月に公表されている。
次に、財務省の「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」で、昭和58年から令和5年までの課税割合の長期推移を確認した。
都道府県別のデータは、国税庁の各国税局が個別に公表している申告事績から収集した。
発見
全国の課税割合は9.9% — 約10人に1人
令和5年分(2023年)の統計によると、年間の死亡者数157万6,016人に対して、相続税の課税対象となった被相続人は15万5,740人。課税割合は**9.9%**で、過去最高を更新した。
| 項目 | 令和5年分(2023年) |
|---|---|
| 死亡者数 | 1,576,016人 |
| 課税対象被相続人数 | 155,740人 |
| 課税割合 | 9.9% |
| 課税価格の合計 | 21兆6,335億円 |
| 申告税額の合計 | 3兆53億円 |
| 1人当たり課税価格 | 1億3,891万円 |
| 1人当たり税額 | 1,930万円 |
10人に1人が課税対象になる時代が、すぐそこまで来ている。
2015年の基礎控除引き下げで課税対象は約2倍に
この「約10%」という数字は、昔からそうだったわけではない。
平成26年(2014年)まで、課税割合は4%台で推移していた。それが平成27年(2015年)に一気に8.0%へ跳ね上がった。原因は、2015年1月1日に施行された基礎控除の引き下げ。
| 改正前(〜2014年) | 改正後(2015年〜) | |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 5,000万円 + 1,000万円 × 法定相続人数 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 |
| 配偶者+子2人の場合 | 8,000万円 | 4,800万円 |
配偶者と子ども2人の3人家族なら、基礎控除は8,000万円から4,800万円へ、3,200万円も下がった。この改正だけで、課税対象者が約2倍になったことになる。
課税割合の推移 — じわじわ上がり続けている
基礎控除引き下げ後も、課税割合は年々上昇を続けている。
| 年分 | 課税割合 |
|---|---|
| 平成26年(2014年) | 4.4% |
| 平成27年(2015年) | 8.0% |
| 平成28年(2016年) | 8.1% |
| 令和4年(2022年) | 9.6% |
| 令和5年(2023年) | 9.9% |
2015年の制度改正だけでなく、地価の上昇や金融資産の増加が課税割合を押し上げていると考えられる。
東京では約5人に1人が課税対象
全国平均9.9%という数字は、地域によって大きく異なる。
令和5年分の都道府県別データ(国税庁各国税局公表値)を見ると、課税割合の上位は以下のとおり。
| 都道府県 | 課税割合 |
|---|---|
| 東京都 | 18.9% |
| 愛知県 | 15.5% |
| 神奈川県 | 14.9% |
| 埼玉県 | 11.5% |
| 京都府 | 11.0% |
| 静岡県 | 11.0% |
| 奈良県 | 11.0% |
| 全国平均 | 9.9% |
東京都の18.9%は、約5人に1人が相続税の課税対象になるということ。東京国税局管内(東京・神奈川・千葉・山梨)全体でも15.4%に達しており、1人当たりの税額は2,728万円と全国平均の約1.4倍になっている。
一方、地方では課税割合が3〜5%程度にとどまる県もあり、全国平均との差は大きい。地価の違いが、そのまま課税割合の違いに表れている。
相続財産の3分の1は現金預貯金
課税対象となった相続財産の内訳も確認した。
| 財産の種類 | 構成比 |
|---|---|
| 現金・預貯金等 | 35.1% |
| 土地 | 31.5% |
| 有価証券 | 17.1% |
| 家屋 | 5.0% |
| その他 | 11.4% |
かつては「相続財産の大半は土地」だったが、令和5年分では現金・預貯金が土地を上回り、最大の構成要素になっている。有価証券(株式・投資信託等)も17.1%を占めており、金融資産の比率が年々高まっている。
基礎控除以下でも申告が必要なケース
「基礎控除以下だから何もしなくていい」は必ずしも正しくない。
配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)や小規模宅地等の特例(居住用宅地330m2まで80%減額)は、申告書を提出して初めて適用される。これらの制度を使った結果、税額が0円になる場合でも、申告自体は必要となる。
つまり、「課税割合9.9%」に含まれない人の中にも、申告が必要な人が一定数いることになる。
→ 相続税の計算方法や控除の詳細は相続税の計算方法と節税対策を参照
まとめ
調べてみて見えたのは、「相続税は関係ない」とは言い切れない現実だった。
- 全国平均の課税割合9.9%は、2015年の基礎控除引き下げ前(4.4%)の2倍以上
- 東京都では18.9%、約5人に1人が課税対象
- 課税割合は年々上昇しており、10%を超えるのは時間の問題
- 都市部の不動産を持つ家庭では、基礎控除を超えるケースが増えている
- 相続財産に占める現金・預貯金の比率が土地を逆転した
「うちは大丈夫」と思っていても、都市部に自宅を持つ家庭なら、基礎控除を超える可能性は十分にある。少なくとも、自分の家庭の相続財産が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を超えるかどうか、一度は確認しておく価値がありそうだ。
相続手続き全体の流れは相続の基本手続き、申告の期限やタイムラインは死後手続きのタイムラインを参照。
出典・公式情報リンク
出典: 国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要」(2026年4月閲覧)
出典: 国税庁「令和4年分 相続税の申告事績の概要」(2026年4月閲覧)
出典: 財務省「相続税・贈与税に係る基本的計数に関する資料」(2026年4月閲覧)
出典: 国税庁「令和5年分 相続税の申告事績の概要(東京国税局)」(2026年4月閲覧)
出典: 国税庁「相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(平成27年1月1日施行)」(2026年4月閲覧)
出典: 政府広報オンライン「相続税はいくらから?基礎控除とは?」(2026年4月閲覧)
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年4月9日 |
| 調査範囲 | 相続税の課税割合の推移(平成26年〜令和5年)、都道府県別課税割合、相続財産の構成比、2015年基礎控除改正の影響 |
| 主な情報源 | 国税庁(申告事績の概要)、財務省(基本的計数に関する資料)、政府広報オンライン |
| 未調査項目 | 全47都道府県の個別課税割合、課税価格帯別の被相続人数分布、税務署単位の課税割合詳細 |