概要
暗号資産(仮想通貨)は相続税の課税対象となる。国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」によれば、暗号資産は相続開始日(死亡日)の時価で評価し、相続財産に含めて申告する必要がある。
金融庁に登録されている暗号資産交換業者は2026年2月現在で28社。資金決済法により、利用者の金銭は信託銀行等への信託が義務付けられ、暗号資産の秘密鍵はコールドウォレット(インターネットに常時接続していない媒体)で管理することが求められている。
暗号資産の相続で最も問題になるのは、被相続人がどの取引所を利用していたか、またウォレットの秘密鍵やパスワードを遺族が把握しているかという点。デジタル終活の進め方の一環として生前に整理しておくことが重要。
選択肢一覧
暗号資産の保管方法と相続への影響
| 保管方法 | 内容 | 相続時の対応 |
|---|---|---|
| 取引所(交換業者)の口座 | bitFlyer、Coincheck、bitbank等に預けている | 取引所の相続手続きで払戻し可能 |
| ソフトウェアウォレット | スマホやPCのアプリで管理 | 秘密鍵またはリカバリーフレーズが必要 |
| ハードウェアウォレット | Ledger、Trezor等の専用デバイスで管理 | デバイス + PINコード + リカバリーフレーズが必要 |
| ペーパーウォレット | 秘密鍵を紙に印刷して保管 | 紙の所在が判明すれば対応可能 |
相続の対象となるデジタル資産
| 資産の種類 | 相続税の課税対象 | 備考 |
|---|---|---|
| ビットコイン(BTC)・イーサリアム(ETH)等 | はい | 相続開始日の取引価格で評価 |
| NFT(非代替性トークン) | はい | 取引実績がある場合はその価格、ない場合は合理的な方法で評価 |
| ステーブルコイン | はい | 原資産の価値に基づいて評価 |
| 取引所に預けたままの日本円 | はい | 預貯金と同様に額面で評価 |
費用の相場
相続税の計算
暗号資産は他の相続財産と合算して相続税を計算する。相続税の基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数。計算の詳細は相続税の計算方法と節税対策を参照。
相続後に売却した場合の税金
相続した暗号資産を売却した場合、利益は原則として雑所得(総合課税)に区分される。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所得区分 | 雑所得(総合課税) |
| 税率 | 所得税5%〜45% + 住民税10%(合計最大55%) |
| 取得価額 | 被相続人の取得価額を引き継ぐ |
| 損益通算 | 他の所得との損益通算は不可(雑所得内は可能) |
※ 2025年12月の金融審議会ワーキンググループ報告では、暗号資産を金融商品取引法の枠組みに移行する方向性が示されている。実現すれば申告分離課税(20%)が適用される可能性がある。
専門家に依頼する場合
| 依頼先 | 費用の目安 | 対応範囲 |
|---|---|---|
| 税理士(暗号資産に対応) | 10万〜50万円 | 相続税の申告、暗号資産の評価 |
| 弁護士 | 10万〜30万円 | 遺産分割に争いがある場合 |
手続きの流れ
取引所に口座がある場合
Step 1: 取引所を特定する
被相続人が利用していた暗号資産交換業者を特定する。以下の手がかりを確認する。
- スマートフォンのアプリ(取引所アプリの有無)
- メールの受信履歴(取引所からの通知メール)
- エンディングノートの記載
- 確定申告書の控え(暗号資産の雑所得の申告があるか)
Step 2: 取引所に連絡する
取引所の問い合わせフォームまたはサポート窓口に、口座名義人の死亡を連絡する。主な取引所の相続手続き窓口は以下のとおり。
| 取引所 | 連絡方法 |
|---|---|
| bitFlyer | 問い合わせフォームから「相続手続き」を選択 |
| Coincheck | 問い合わせフォームから連絡 |
| bitbank | 問い合わせフォームで「相続等に関するご質問」を選択 |
| GMOコイン | 問い合わせフォームまたは電話 |
Step 3: 必要書類を提出する
取引所から案内される書類を準備・提出する。一般的に必要な書類は以下のとおり。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑登録証明書
- 遺産分割協議書または遺言書
- 相続人の本人確認書類
Step 4: 残高証明書を取得する
相続税申告のために、相続開始日時点の暗号資産の残高・評価額の証明書を取得する。取引所によって対応が異なるため、Step 2 の連絡時に依頼する。
Step 5: 払戻しを受ける
書類審査の完了後、暗号資産は日本円に換算されて指定口座に振り込まれるのが一般的。暗号資産のまま移転できる取引所もあるが、対応はまちまち。処理期間は1〜2か月程度。
個人ウォレットに保管されている場合
秘密鍵(またはリカバリーフレーズ)がなければ、ウォレット内の暗号資産にアクセスすることは原則として不可能。
- 秘密鍵・リカバリーフレーズの保管場所を確認する(金庫、エンディングノート等)
- 秘密鍵が判明した場合、ウォレットを復元して暗号資産を移転する
- 相続税の評価のため、相続開始日時点の価格を記録する
- 秘密鍵が不明で暗号資産にアクセスできない場合でも、存在が確認できれば相続税の課税対象となりうる
相続税の評価方法
国税庁のFAQに基づく評価方法は以下のとおり。
| 区分 | 評価方法 |
|---|---|
| 活発な市場がある暗号資産(BTC、ETH等) | 相続人が取引を行っている交換業者が公表する相続開始日の取引価格 |
| 活発な市場がない暗号資産 | 売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価 |
※ 複数の交換業者を利用している場合は、相続人が選択した交換業者の価格を使用できる。
自治体の支援制度
暗号資産の相続に対する自治体の補助金・支援制度はない。
注意点・よくあるトラブル
- 秘密鍵の紛失: 個人ウォレットの秘密鍵を誰も知らない場合、暗号資産は事実上アクセス不能になる。生前にリカバリーフレーズの保管場所を信頼できる人に伝えておくか、エンディングノートに記載しておく
- 価格の急変動: 暗号資産は価格変動が大きい。相続開始日の評価額と実際の売却時の価格が大きく異なる場合がある。評価額が高い時に相続が発生すると、売却時に値下がりしていても相続税は評価時点の金額で計算される
- 申告漏れのリスク: 暗号資産の存在を遺族が知らない場合、相続税の申告漏れになる。国税庁は暗号資産交換業者に対して顧客情報の提出を求めることができるため、後日指摘を受ける可能性がある
- 海外取引所の利用: 海外の暗号資産交換業者に口座がある場合、相続手続きが複雑になる。英語での書類提出が必要な場合もある
- NFTの評価困難: NFTは個別性が高く、取引実績がない場合の評価が難しい。税理士に相談することが望ましい
- 無登録業者のリスク: 金融庁に登録されていない暗号資産交換業者を利用している場合、利用者保護の仕組みが働かない。金融庁の登録業者一覧で確認できる
調べてみて気づいたこと
暗号資産の相続で最も厄介なのは、「故人が暗号資産を保有していたかどうか自体がわからない」ケースが多い点。銀行口座のように通帳があるわけではなく、取引所のアカウント情報を遺族が知らなければ、存在に気づかないまま放置される可能性がある。
相続税の評価は「相続開始日の時価」で行われるが、暗号資産は価格変動が激しいため、相続開始日の評価額と売却時の価額が大きく乖離することがある。評価が高い時に相続が発生すると、売却時には値下がりしているのに高額の相続税を課されるリスクがある。
各取引所(bitFlyer・Coincheck・bitbank・GMOコイン等)の相続手続きを調べると、必要書類や手続き期間が取引所ごとに異なることがわかった。共通しているのは、戸籍謄本一式と相続人全員の同意が必要という点。手続きに数週間〜数か月かかるケースもある。
出典・公式情報リンク
出典: 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(2026年4月閲覧)
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.1524「暗号資産を使用することにより利益が生じた場合の課税関係」(2026年4月閲覧)
出典: 国税庁 タックスアンサーNo.4105「相続税がかかる財産」(2026年4月閲覧)
出典: 金融庁「暗号資産の利用者のみなさまへ」(2026年4月閲覧)
出典: 金融庁「暗号資産交換業者登録一覧」(2026年4月閲覧)
出典: e-Gov法令検索「資金決済に関する法律」(2026年4月閲覧)
※ この記事は法的助言ではありません。具体的な手続きは弁護士・司法書士・税理士にご相談ください。
調査カード
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 調査日 | 2026年4月3日 |
| 調査範囲 | 暗号資産の相続税評価、取引所の相続手続き、秘密鍵管理、NFTの扱い |
| 主な情報源 | 国税庁(FAQ・タックスアンサー)、金融庁、e-Gov法令検索(資金決済法) |
| 未調査項目 | DeFi(分散型金融)上の資産の相続、DAO参加権の相続、メタバース上の不動産の評価、海外取引所の相続手続きの詳細 |